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光、もしくは祈り

漫画 音楽

 世界は美しいのよと人は言う。それはわたしも知っている。

 世界の優しさ美しさを知ってもなお暗い方へ暗い方へと進む心、というのがある。確実にある。人は優しいと知っていても、この世には信じるに値するものがあると分かっていても、自分の怒りや妬みや劣等感が押さえきれないほどに増幅し、たちまち相手が信じられなくなることがある。未来は白紙であり、だからこそ嘆きや絶望が永遠に続く確証もないのだと知ってはいても、自分の先行きには気が遠くなるほどの孤独と淋しさが待っているとしか思えないこともある。1人、1人、わたしは1人。惨め、惨め、わたしは惨め。絶え間ない自己嫌悪。救いようのない隔絶感。

 それでも私たちが生きているのは何故だろう。暗い道を歩きながらも、何とかこっち側でやろうともがいているのは何故だろう。それはきっと、心のどこかに世界の美しさの記憶があるからではないだろうか。光、もしくは祈り。そういう、ささやかで力のない、今にも消え入りそうな、でも確実にそこにある美しさ。

 それはあの日の笑顔かもしれないし、なんてことのない台詞かもしれない。エンドレスで聞き続けた音楽かもしれないし、ボロボロになるまで読んだ書物の中の一節かもしれない。そういった、何か、世界の美しさを象徴する記憶。それらは意識の中に、無意識の中に、ひっそりと積み重なり、私たちが暗い道を歩いているときにふと遠くで静かに光る。光、もしくは祈り。か細く非力なクモの糸。

 

しろいうさぎとくろいうさぎ

しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

 黒いうさぎのあの願いが、大人になったわたしたちの心を抉る。
 未来は予測不可能で、わたしたちにはどうしようも出来ないことがあるという不安や恐怖(その最たるものは「死」なのだろう)。それらに押しつぶされんばかりの心が耐え切れずに絞り出すのがあの願いごとだ。
 白うさぎの返答が決して真実ではないことを私たちは知っているけれど、でも重要なのはそれが真実かどうかではないのだ、ということも知っている。黒うさぎを安心させるのは言葉そのものではない。不安な心がすがる願いに対して、「いつまでもなんてムリ」と否定するのでなく、「例え現実的にムリであってもわたしもそうでありたい」という意志を示す白うさぎの姿勢そのものが黒うさぎを安心させるのだ。この素朴な不安と素朴なひたむきさ。何度読んでも泣ける本。
 

 

「FOLKLORE」

 
 美しさの結晶。60分35秒の光。 
 

鉄コン筋クリート

鉄コン筋クリート 1 (小学館文庫 まC 5)

 「あんしん、あんしん」なんてことは全然ない世の中であることを十分すぎるほど知っているのだけれど、だからこそクロには(私たちには)ニコニコと笑うシロが必要なのだ。やさしさの象徴。