垣間見える記憶と情緒の連なりに手を伸ばせ

その日は結局、エレベーターの横のくぼまったスペースで30分ほど立ち往生してしまった。 心理室で検査を行うために入院中の60代男性と歩いてエレベーターの前まで来たのだが、その男性がそのエレベーター脇のスペースにすっと入り、そのまま小声で何やら話し…

何の意味があるのかと問われようともそこに意味はある

療養病棟の一角にあるその病室はとても静かだ。寝たきりで意識も朦朧とした人しかいないため、部屋の空気はほとんど動かず、呼吸器や酸素マスク越しに痰の絡んだ呼吸音だけが聞こえる。硬直し奇妙な方向に捻じれた手足。閉じられた瞼、もしくはあらぬ方向を…

「異物」の文脈に思いを馳せよー『トラウマの現実に向き合う』の紹介

この前、1人の他者として尊重されない苦痛、相手の価値観や感情で規定されてしまうことへの拒否感について書いたのだけれど、書いた後に、確か似たようなことについて分かりやすく書いた本があったな、と思って探してみたらあった。水島広子の『トラウマの現…

生き延びるための10代暗黒絵巻

わたしは人生で最も苦痛だったのは10代の頃なので、大人になってからの方が生きやすいと感じた。 虐められていたわけでも勉強ができなかったわけでも虐待があったわけでもないけれど、学校という閉じられた空間と家庭しかないあの頃の閉塞感は気が狂いそうだ…

「なんで幸せになろうとしないの」という言葉のもつ暴力性

時折、人から「幸せになれるはずなのに(どうしてなろうとしないの)」と言われる。わたしはその度に少し傷つく。 傷つくのは、それなりの歴史と葛藤をもった個人として扱われていない感じがするからだ。わたしという固有の存在が、相手の価値観や感情で勝手…

理想を主張すればいいわけじゃない

前の職場の人(医療従事者)と話し、新人指導の大変さについて聞く。 指導している新人さんが、指導内容や業務環境に対して「学校ではこう習ったんです…」といちいち言ってくるので参るらしい。どうにもその新人さんは学校では習ってないような現実はなかな…

やさしいものへの期待とそれに対する警告、ぬいぐるみの話

懇親会は女性ばかりだった。わたしより若い人が数名と、後はわたしよりも年上の女性たち。みんな同業者だ。 女性ばかりの会合だとわたしはいつも少しだけ緊張してしまう。嫌われるのでは、と思うのだ。彼女たちがわたしと付き合うメリットは何もないから、変…

死、もしくは詩

一番最初に死を意識したのはいつだろう。 わたしの場合は小学生の頃、一人でシャワーを浴びていた時だ。シャワーの穴から延々とお湯が出てくるのを下からぼんやりと見上げていたら、急に時間というものや毎日というものがこれからも延々と連なっていくのだと…

さみしくてかわいらしい孤独【絵】【南桂子】

南桂子は友人から教えてもらって知った。15歳ほど年上の友人が南桂子の展覧会に行き「絶対好きだと思って」とポストカードを買ってきてくれたのだ。一目で好きになり、画集もその場で貸してもらったのを覚えている。 さみしくて、かわいらしい、きれいな色彩…

光、もしくは祈り

世界は美しいのよと人は言う。それはわたしも知っている。 世界の優しさ美しさを知ってもなお暗い方へ暗い方へと進む心、というのがある。確実にある。人は優しいと知っていても、この世には信じるに値するものがあると分かっていても、自分の怒りや妬みや劣…

観念的なものが通用しない現実、というもの

北海道にある、取り組みや理念がユニークかつ画期的なことで有名な精神疾患患者のための地域活動拠点「べてるの家」。その創立にかかわったソーシャルワーカーの向谷地さんの以下の言葉がとても好きで、初めて読んだ時からずっと覚えている。 学生時代までの…

暗澹たる圧倒的現実を知れ

「世の中には2種類の人間しかいない。貧困を知る者とそうでない者だ」。という言葉があるかどうかは知らないけれど、あってもおかしくないんじゃないか、とか思う。 うちの親族は貧困を知らない。そしてわたしも貧困を体験したことはないのだが、仕事では貧…

物語における理不尽な死が好きだ

物語における理不尽な死が好きだ。1人1人の個別性も尊厳性もなく惨めに虫けらのように殺される、そんな死が大好きだ。 それは私たちに普段はキレイに隠されているこの世界の無慈悲さを思い出させる。私たちは誰だって何も意味も大義もなく簡単に死んでしまう…

こんにちは中二【中二の教科書3点】

【中二】もしくは【厨二】 捩じ切れる自意識と孤独の中、ただただ無限に劣等感を膨らませる暗黒の時代。己の力を過信して周囲を蔑みあげつらい、その倍以上に己を憎む。性と死を渇望しながらも大半のものを拒絶する。命をかけた自己陶酔。疾風怒濤の季節。 …

えも言われぬ不安はきっとこんな姿をしているに違いない

ポルトガル?の子ども向け番組のプロデューサーが描いたモンスターの絵。ネットで知って一目惚れ。 無表情(少しだけ不安そうにも見える)な子どもたちと、さも当然のように、彼らの背後に、隣に、上空に佇むモンスターたち。可愛らしくも不思議で、えもいわ…

不自由で残酷な子ども時代を生き抜くために【本】

子ども時代は厳しい。よく「社会は厳しい、世間は厳しい」とは言うけれど、それを言うなら子ども時代だって相当厳しい。 子どもたちは、一見自由であるかのように見えるけれど、実際はまったく自由ではない。考えてみれば当たり前だ。親の都合に左右され、そ…